のーた、のーーたあ。のこった、のこったあ。
のおた、のおたああ。のこった、のこったあ。
ずざあっ、ずざざざざああああ。
夕暮れの中、相撲をとり続ける小六女子二人。
そして計らずも行司となってしまった一人の小六女子。
校庭にはもうこの三人しかいない。
「ちょっとぉ、ハミちゃんを取らないでくれる?」
親友Mのこのセリフから全ては始まった。
親友Mは私が小学三年生の時、転校してきて以来の友だちだ。
なぜだか私を一目見て気に入ったとかで「絶対一番の友だちに
なるんだ!!」と心に誓い、転校初日からなにくれとなく世話を
焼いてくれた。家も近くていつも一緒に遊んでいた。
「遊びたくない」と言ったって無理やり引きずり出されていたに
違いない。彼女はとても強引なのだ。あまりに仲が良すぎたの
かそれきり同じクラスになることはなかったが四年生になってか
ら同じ部活に入ったこともあってクラスが違ってしまったことは
気にならなかった。
しかし、親友Mは大いに気にしていたのである。
六年生になって、私はTさんという子と仲良くなった。なかなかに
気が強くて、強引。私は実際はそうでもないのだがどうもおっとり
して見えるらしく一種の人間に「言いなりにさせたい!支配したい!
いやこいつは私の言うことを聞くはずだ!」と思わせてしまうらし
い。親友MもTさんも強くそう感じたのだろうと思う。その試みが
失敗した親友Mはかつての自分と同じことをしようとしているTさん
に敵意をむきだしにした。親友M、独占欲も大変に強いのだ。
これまた気の強いTさんが喧嘩を吹っかけられて黙っているはずがない。
「なあにーー?!私が誰と仲良くしようと勝手でしょ?」
「そうはいかないわよ。前から気に入らなかったんだから。
ハミちゃんは私の親友なのよ。取らないでよ」
実は親友M、以前も私を取られるまいと画策し、私と自分の父親を
怒らせるという事件があった。それからは大人しくしていたのだが
彼女は納得したのではなく我慢していただけらしい。
私本人の意思は無視され言い合いはエスカレートしていった。
そして負けず嫌いで曲がったことの嫌いなTさんは高らかに宣言した!
「それじゃあ、相撲で勝負よ!」「???いいわよっ、相撲で勝負よ!」一瞬引いた親友Mも受けて立った。
しかし、土俵なんて小学校にはない。どうする、小六女子二人。
「トラック。トラックでやればいいよ」スケールでかーーーーっ。楕円だし。トラックって、あれよ。運動会でリレーとかする時に使うあれよ。
でも火のついた二人はもう止められない。
「ハミちゃん、ちゃんと見ててねーーー」声をそろえて言う。実は仲がいいんじゃないの、この二人。
まあ、とにかく逆らうまい。
「う、うん。分かった」
「はっけよーい、のこった!」そして勝負は親友Mが負けて終わった。
(世界最大級の土俵も小さくしか使われなかった。)
だからと言ってその後、私たちの関係は変わることはなかった。
似たもの同士の二人がちょっとぶつかって思わず相撲をとって
しまっただけ。
家が別方向のTさんと別れて二人で歩いたいつもの帰り道。
私は何を話したのか覚えていない。きっと親友Mは終始悔しが
っていたに違いないけど。
(あんなことしなくたって側にいるのに)
なんて気の利いたセリフは言わなかったろうな、私。
(相変わらず、気が強いなあ)
くらいにしか思わなかったんだろうな、私。
大人しくて友だちも少なくて、クラスの男の子にいじめられていた
私を温かく受け入れてくれたのが小学三年生の時に転校して行っ
た先のクラスだった。みんなが私を宝物みたいに扱ってくれた。
その先頭にたっていたのが親友Mだったのだ。彼女の「好き」が
みんなに伝染したに違いない。そして彼女は最初に思った「好き」
を今も続けてくれている。
子どもらしい独占欲や我儘で隠されてすぐにはそうと分からなかった
友情が真の愛情だと気付いたのは社会人になって何年もしてからだっ
た。彼女は他人でありながら家族のような愛情を注いでくれた初めて
の人でした。
我儘で気が強くてむきだしのニトログリセリンみたくすぐ爆発する
癇癪持ちで強引で口が悪くて短気。それでいて常識人で気が利いて
快活で素直で正直で愛情深くて自分を愛するすべを知っていて力持
ちでちょっと体が弱い。
そんな彼女の特徴をひとつでも持ち合わせた人間を見ると思わず
顔がほころんでしまう私なのでした。